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もう一人の知里幸恵/富樫利一

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四六判 184ぺージ

【版元サイトより】「みなが讃辞を送る幸恵とは違う幸恵が存在していることが最近ようやくわかってきたのです。もう一人の幸恵について語ります」

アイヌ文化を研究してきた富樫氏、最後の著作。立命館大学・崎山政毅氏が『異郷の死、知里幸恵、そのまわり』(人文書院、2007)の中で「知里幸恵をあえかなる生の美談に押し込めてはならない」と述べたが「あえかなる」は「か弱く美しい」の古語。これは一つの警告と受け止めてよい。知里幸恵ほど死後に多くの人(日本人、アイヌ、外国人等)に語られた人はいない。その多くが日本人の学者、研究者などによって描かれた「清く、美しく、キリスト教信者、稀な文才、日本語とアイヌ語の二つの民族の言語を操る人、病弱、早逝」と書かれてきた。その底には「あえかなる」といった、執筆者や読者の主観が常に流れていたことは否定できない。そのイメージは神秘的な像となってしまった感が強い。アイヌであるけれども日本人、アイヌではない人、別な人、特別な人との人物感が、幸恵を読む人の都合次第でイメージ化されてきた。そして「アイヌ神謡集」序文の美しい日本語の適格な表現がいっそう読者の共感を呼び感動させた。幸恵が遺した、読者に訴える、その声が胸に響くような名文は決定的に読む者の心を捕えた。アイヌ民族が信じた、カムイモシリから一人の女神が地上に降り立ち、19年の短かい生涯で、アイヌ民族の誇らしい民族文化を文字に遺した人ではないかと信ずる者さえ出てきた。しかし、それまで、日の当たらぬ道なき道を歩いてきた多くのアイヌ同胞の、苦難の歴史は消え失せてしまっている。特権化された一部への賞賛は、外野席からアイヌを見る日本人(シャモ)の群れには格好の見せ物となっているだけであり、日本人は、鑑賞し、賞讃し、記念館を建築、運営しと、内実は正反対であるにも関わらず、外面的には協力し続ける態度を取ることで、私を含めたシャモの加害の罪(土地侵略、文化破壊、生存権剥奪、民族差別政策等)が消え去ると錯覚しているのではないか。幸恵はアイヌとしてどれだけ差別に悩み苦しんだか、そしてどれだけ人を愛したか、また自分の子を産みたいと思っていたか、母になりたくてもなれなかった悲しみの姿も消えてしまっているのである。時代を経て、憶測、創作等が通じなくなるような別な資料が発見されている現在、事実誤認の訂正をしておかなければ、著者の意図するアイヌ文化研究は「学」として成立しなくなるところまで来ている。そんな意図をこめて本書は世に送られることとなった。

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